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花井陳雄・元協和キリン取締役会長×リバネス井上浄「組織は柔らかくあれ。個性を伸ばし、進化し続けられる人材をつくる」

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元・協和キリン株式会社取締役会長の花井陳雄氏は抗体医薬品開発の研究者として独自の抗体医薬技術「POTELLIGENT®(ポテリジェント)」の研究開発や、アメリカで同技術をライセンシングする会社BioWa,Inc. を立ち上げるなど、研究者としても経営者としても結果を残してきた。研究者から経営者へ、そして「たった1度のいのちと歩く」を志に掲げ、バイオ医薬開発のパイオニアとなった組織を率いるリーダーへと進化していった花井氏が考える「144 年続く組織における研究人材像」についてお話を伺った。 ※本記事は2019年12月発行「人材応援」vol.11に掲載されたものです(編注:花井氏は2020年3月に協和キリンの取締役会長を退任し、同年5月よりリバネスキャピタルの取締役に就任)。

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スピーカー

花井陳雄 氏

協和キリン株式会社 取締役会長
1976 年に協和醗酵工業株式会社に入社、バイオ医薬品の研究に取り組み、協和発酵キリン独 自の抗体医薬技術「POTELLIGENT®(ポテリジェント)」の開発を牽引し、アメリカの子会社 BioWa,Inc. の社長に就任。2012 年より協和キリン株式会社の代表取締役社長、2018 年より代表取締役会長、2019 年より取締役会長を務める。※編注:花井氏は2020年3月に協和キリンの取締役会長を退任し、同年5月よりリバネスキャピタルの取締役に就任。

井上浄

株式会社リバネス代表取締役副社長CTO
株式会社リバネス創業メンバーの1人。北里大学理学部助教および講師、京都大学大学院医学研究科助教、慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授を経て、2018 年より熊本大学薬学部先端薬学教授、慶應義塾大学薬学部客員教授に就任・兼務。研究開発を行いながら、大学・研究機関との共同研究事業の立ち上げや研究所設立の支援等に携わる研究者。

研究者が経営者になり、組織の未来をけん引する 

井上 花井さんは研究者としてリンパ腫に有効性を発揮する抗体医薬品を創成するという素晴らしい実績を残された研究者としても、経営者の先輩としても非常に尊敬しています。研究者から経営者への転換には葛藤がなかったのでしょうか。

花井 葛藤はありました。当時はちょうどBioWa ,Inc. を立ち上げるきっかけとなる「POTELLIGENT®(ポテリジェント) 技術」の研究が軌道に乗っていたときでしたから、研究を辞めたくないというのが正直な気持ちでした。

その悩みを吹き飛ばしたのは、ニューヨークで親交のあったTNF( 腫瘍壊子因子)の発見者であるDr. オールドの「自分の研究を進めたかったらマネージメントに移るべきだ」というアドバイスでした。当時はまだ、抗体医薬の実用化は半信半疑の状態でしたので、辞める企業も少なくなかった。基礎研究はできてもなかなか開発資金を確保できなかったのです。

彼に「他の誰かがトップに立って、『抗体医薬をやめよう』と決断したら研究は続けられない。直接研究開発には関われないかもしれないが、抗体医薬実用化の夢を実現するチャンスだ」と言われ、決意したのです。

井上 たしかに経営者の決断は、組織の研究開発の方向性に大きな影響を与えうる。研究者が経営者に抜擢される、というのは研究を大切にされている御社らしい風土ですね。研究者を離れた感覚はあったのでしょうか。

花井 研究者を離れた感覚はありませんでした。経営というのはある程度まではサイエンスで語ることができます。ポジティブな結果もネガティブな結果もでる中で分かること、分らないことを明確にして次に進むのは研究で培った感覚が大いに活かせます。 また、実際にやってみたらマネージメントはプロデューサー業でした。研究に必要な資金を獲得し、研究者のキャスティングを考え、研究プロジェクトを作り上げていくことは、1研究者でいるときよりも、研究を進めている感覚がありました。

社員の個性が組織の柔らかさをつくる

井上 1907 年のキリングループの創業からたどると、御社には144 年に近い経営の歴史があります。そのような組織にあって、花井さんが実感できる「続く組織」とはどんな組織でしょうか。

花井 今から144 年前というと明治時代ですね。時代が変わり、今取り組んでいる事業も変わり、組織の形も統合したり、分社化したりと大きく変わりました。組織は時間をかけて巨大に成長させながらも、常に変化していかなくてはなりません。しかし、組織は大きくなればできる ことは増えますが、舵取りのためにルールや仕組みに縛られて硬くなってしまいがちです。

井上 難しい問題ですね。リバネスは会社を生物に例え、大量の細胞によって1 つの機能を果たす組織のように経営を考えると、いろいろと気づきがあります。そんな視点で細胞1 つ1 つである社員はどんな存在であるとよいと考えますか?

花井 1 人1 人の個性を大事にすることでしょうね。協和キリンには5千人強の社員が働いています。それだけいるといろんな人がいますね。しかし、没個性の5 千人 が集まっていても、突然の環境変化に対応することはできません。1つの大きな機能を果たすための仕組みはつくりながらも、新陳代謝を繰り返して、環境変化に応じて変化できる、柔らかい組織であり続けなくてはいけないでしょう。

井上 今、ダイバーシティーという言葉が大切にされていますが、男女や国籍の違いなどだけでなく、それぞれの個性を尊重することが柔らかい組織を保ち、時代が変化しても続けていける組織にすることができるのですね。柔らかい組織をつくるため、人材に対して働きかけているこ とはありますか。

花井 私が研究所にいた頃、入社して間もなく成果の有無に関係なく医学部の病理学研究室に派遣されて学ぶ機会をもらっていました。私自身で今振り返ると「遊んでいた」ようにも思いますが、知らないことを積極的に学びに行ける環境は非常に重要だと思います。

例えば今起こっている情報革命は産業革命以降でもっとも大きな変化なのではないでしょうか。OJT で「今」の仕事だけに従事していると、身につけることができないスキルや考え方がたくさんあります。社員の興味や熱意で新しいスキルや考え方を身につけてもらうことは非常に大事だと思います。

同じ会社で同じ仕事を続けていたとしても、新しい考え方やスキルを掴みにいくこと、学び直していく時間を持つことは非常に大事だと考えています。企業にも余裕がなくなっている時代ですが、大学院に限らず新しく外に学びにいく機会があれば、会社が一部補助を出すなどして推奨しています。

井上 研究者は世界で初めての発見をすることにワクワクし、自分ならではの視点を磨いていきます。大学のときの専門や、今までの経験は通過点にすぎない。ラボで経験してきたことに止まらず学び直していけることが144 年続く組織の研究者には必要であり、そういう人材をつくっていくことが重要だと感じました。

花井 自分の興味や情熱を保ち続けながら、異分野や新しい時代の考え方から学んで、自分の専門性に還元したり、コンピテンスを加え続けて行かないと個人も組織も硬くなってしまうでしょうね。自分で新しい学びの機会を掴んでいくように発信して行きたいですし、組織としてもで きるだけ時間やその機会を作っていきたいと思っています。

ビジョンを受け継ぎながら新たに「つくる」ことができる人を

井上 組織が144年続けていくためには継承していく、ということも重要になると思います。花井さんも2018 年に社長職を後進に引き継がれました。今のタイミングでの社長交代の決断にはどんな背景があったのでしょうか。

花井 社長の交代は自分から指名・報酬諮問委員会に申し出て検討いただきました。ステージによって会社は変わっていくべきです。今はサイエンスだけでなく、開発や経営戦略など、より総合的な力を結集して、経営をしていかなくてはなりません。現社長の宮本さんはその力がある方なので一緒にやりたいと思いました。経営者だって完璧な人間はいません。組織には、様々な人がいて、そのステージにより適した人が社長でいるべきだと考えたのです。

井上 個性が活かされ続けてきたからこそ、様々なステージに適した様々な人材が経営者として輩出されているのですね。経営者の自身の判断が柔らかいことで、様々な人を活かす土壌が生まれているように感じます。次の世代の社員に引き継いていきたい考え方はどんなことでしょうか。

花井 長く続けていく中で時代や社会は変わっていきますが、変わらないことがあるとすれば、人が生まれて死ぬということです。必ず死ぬ一生の中で満ち足りて有意義な時間を過ごせることが重要で、企業もそこに寄与できることを目指すべきだと私は思います。

弊社も一貫して人々の健康と豊かさに貢献することを目指してきました。会社が何のために存在するかというと、売上や自分たちの生活のためにある訳ではありません。人の満ち足りた人生をつくるためにあるのです。そのことを一人ひとりが認識して欲しいし、経営者はぶらさずに伝え続けていかなくてはならないと思いますね。

2008年に協和発酵キリン(現:協和キリン)が発足するときに、社員と経営陣で議論し、製薬企業として働く自分たちの思いを、「私たちの志」という文章として残しました。「たった一度のいのちと歩く」という言葉が生まれ、決意を新たにできたのではないかと思います※。時代によって組織の形は変わっていきますが、自分たちが何のためにあり続けるのか、社員と対話をしながら見つめなおして行きたいですね。

※ https://www.kyowakirin.co.jp/about_us/commitment_to_life/index.html

井上 原点を見つめ直し、そのときの社員の考えや思いが合わさって、形にしていくと、同じビジョンの中にも新たな発見があり、ビジョンの捉え方も進化していくものなのですね。そうして組織は新たに生まれ変わりながら、進化を続けていくのだと実感しました。柔らかい組織と新 陳代謝、そしてぶれないビジョン、これは夢を持つ生命そのもののように感じます。今日はありがとうございました。

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