L ID

      教育

      生き残り大作戦〜生きとし生けるものたちが共通して目指すこと。それは、生き残ること〜

      サムネイル

      自分が生きて、親となって子孫に命をつなぐため、ときには他者と協力し、それぞれの作戦で厳しい環境や、天敵に対抗してきた生き物たち。今回は、あの手この手で生き延びてきた彼らの巧みな作戦の一端をご紹介します。 ※本記事は2019年秋号「someone」vol.48に掲載されたものです

      タグ

      逃げる? 戦う?生き残るが勝ち!

      ゼブラフィシュ
      逃げる:ゼブラフィシュなど硬骨魚類は脳で判断せずに脊髄反射で襲ってくる外敵から逃げようとします。他にも、自らしっぽを切り離しすトカゲや、うろこを脱ぎ捨てるヤモリなど、敵から逃げるための工夫は様々です。
      フタホシコオロギ
      死んだふり:フタホシコオロギは物理的に拘束されると、突然抵抗するのをやめ、凍りついたように数分間動かなくなる、擬死行動をとります。動かなくなることが、本当に身を守ることにつながるかは、意見がわかれるところです。
      コノハムシ
      隠れる:からだの色や形などを、周囲に合わせることで敵に見つかりにくくする戦略を擬態といいます。葉っぱにそっくりなコノハムシや、まるで木の枝のようなナナフシなど、観察するだけでも面白い生き物がたくさんいます。
      イワシ
      群れる:イワシは大量に群れをなして行動します。これは外敵となるマグロなどの大型魚から身を守るためだと考えられています。群れることで、外敵を発見しやすくなったり、自分が狙われる確率を下げることができるのです。
      サンゴ
      協力する:サンゴ(刺胞動物)の体内には褐虫藻と呼ばれる微生物がいて、お互いに成長に必要な栄養を渡しあう共生関係をつくっています。
      スカンク
      威嚇する:スカンクは敵に遭遇すると、しっぽをふくらませたり叩きつけたりして脅かします。最終的には、強烈な匂いの物質を敵に浴びせかけます。

      ここからは、世界各地に生息する生き物たちの生き残りの作戦を詳しく見てみよう。

      (1)地面に根を張った植物は、どうやって洪水を逃れるの?ぐんぐん伸びるイネの洪水対策

      浮きイネ(学名:Oryza sativa)
      浮きイネ(学名:Oryza sativa)

      東南アジアの地域の特に標高が低い湿地帯では、雨季に頻繁に大きな洪水が起きます。例え ば、バングラデシュ北東地域の農場では、農地の6 割が完全に水に浸かり、その水深は2 m 以上にもなるそうです。そんな過酷な環境の中で、はるか昔から栽培されてきた浮きイネ。い ったいどのようにして洪水地域で生き残り、稲穂を実らせるのでしょうか。

      取材協力:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門 遺伝子利用基盤研究領域 組換え作物技術開発ユニット 黒羽剛さん
      取材協力:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門 遺伝子利用基盤研究領域 組換え作物技術開発ユニット 黒羽剛さん

      水面を目指してどこまでも

      浮きイネと呼ばれるイネの種類にはとても特殊な能力があります。日本でよく栽培されているイネは、全身が水に浸かると酸素を取り込めずに2週間もすれば死んでしまいます。しかし、浮きイネは沈んだら沈んだ分だけ水面を目指して草丈を伸ばし続け、遂には水面から顔を出して呼吸をすることができるのです。

      東南アジアの洪水地域で農業を営む人々は、昔から、洪水でも生き延びるこの特性に着目し、栽培に取り組んできました。現地の人たちに、選ばれ育てられてきたこの浮きイネは、なぜこんなにも伸びるのでしょうか。黒羽先生をはじめ、多くの研究者がその疑問を解き明かそうと長年に渡って研究に取り組んでいます。

      通常のイネと浮きイネの比較。
      通常のイネと浮きイネの比較。浮イネは水没後、ぐんぐん背丈を伸ばして8日後には水面に達している。

      どうしてこんなによく伸びる?

      植物が水没すると、エチレンという植物ホルモンが体内に蓄積します。そのホルモンが信号 となって、浮きイネは草丈を伸ばすのではないかと予測されていました。

      黒羽さんが以前所属していた名古屋大学の芦苅基行教授らの研究グループでは、2009年に、蓄積したエチレンに反応して草丈を伸ばす2つの遺伝子(SNORKEL1とSNORKEL2)を発見しました。

      「面白い点は、これらの2つの遺伝子が存在する浮きイネの種類のなかでも、非常に良く伸びる浮きイネとそれ程伸びない浮きイネがあることです。なぜこの違いがあるのか、この原因を解き明かしたかったのです」と黒羽さん。芦苅研究グループと共同でさらに研究を続けました。

      仲介役の2つのタンパク質がカギ

      2018年、黒羽さんはエチレンの情報を受け取って、背丈を伸ばす遺伝子に働きかける仲介役となる2種類のタンパク質を発見しました。OsEIL1aというタンパク質が、SD1遺伝子にはたらきかけることで、SD1タンパク質をたくさん作らせます。そしてSD1タンパク質が、草丈を伸ばす機能を持つジベレリンという植物ホルモンを大量に生産させることがわかったのです。

      通常のイネと比較すると、この浮きイネは約20倍も効率よくジベレリンを生産します。このしくみによって、浮きイネは背丈をぐんぐん伸ばすことができるのです。この発見により、SNORKEL遺伝子の存在だけでは説明しきれなかった浮きイネの伸び方のしくみが明かされました。

      水没してから草丈が伸長するまでの浮きイネの中で起こるしくみ。
      水没してから草丈が伸長するまでの浮きイネの中で起こるしくみ。エチレンの蓄積によって生産される大量のOsEIL1aタンパク質により、SD1遺伝子がSD1タンパク質を生成する。その結果、ジベレリン(GA4)が大量生成され、草丈が伸びる。

      危険を感知して生き残れ

      「浮きイネが水に浸かると伸びるという性質は、一般のイネが花が咲いて実がなる時期に背丈を伸ばすしくみとは違って、洪水という環境の変化に反応して起こります。どうやら、植物の成長の過程で伸びるしくみとは別のしくみを働かせているようです」と黒羽先生。

      水没を感知してからの特殊連絡網を使ったこの伸びるしくみ。浮きイネは、洪水を生き抜く独自の術を発達させてきたのですね。 (文・前田 里美)

      (2)水底の風景に擬態する子育て上手な魚とは?家族で暮らして生きのびる魚!

      フルシファー(学名:Neolamprologus furcifer)
      フルシファー(学名:Neolamprologus furcifer)

      親が子どもを育てる─哺乳類の世界では、当然のように行われるこの行動は、魚類の中で はほんのわずかな種類だけがとります。その中でも、アフリカ南東部のとある湖に生息してい るフルシファーという魚の子育てはとてもユニークです。彼らはどんな場所でどんな子育てを しているんでしょうか。そこにフルシファーが生き残ってきた秘密があるようです。

      取材協力:大阪市立大学理学研究科生物地球系専攻 特任助教 佐藤駿さん
      取材協力:大阪市立大学理学研究科生物地球系専攻 特任助教 佐藤駿さん

      一見住みにくいマイホーム?

      フルシファーが生息しているのは、アフリカ南東部のタンザニア、コンゴ民主共和国、ブルンジ、 ザンビアの4カ国に囲まれた細長い湖、タンガニーカ湖。総面積32,900㎢、東京都の約15倍の大きさ(世界第6位)で、最大水深は1,470m(世界第2位)です。

      この地域では、年間の気温変化がほぼ無いことから水の循環が悪く、加えて水質が強度のアルカリ性という特徴があります。沈殿した土壌も厚く、少し移動するだけで、水の環境が大きく変わるので、住みやすい場所を確保するのは至難の業。こんな特殊な環境の中で、フルシファーは一体どのように暮らしているのでしょうか。

      4カ国にまたがるタンガニーカ湖
      4カ国にまたがるタンガニーカ湖

      子育てする魚、しない魚

      フルシファーは、シクリッド科という魚に分類されます。アフリカやアジアの一部、南アメリカ など熱帯地域の湖や川に生息しており、その全種が「子育て」をしていると言われています。例えばシクリッド科の魚類で熱帯魚として有名なエンゼルフィッシュは、孵化後の稚魚のそばで世話をすることで、自分の子どもを捕食者から優先的に守ります。

      一方で、大多数の魚は全く子育てをしません。例えば、群れを作って大海原を泳ぐマイワシは、たくさんの仲間と一緒に行動しますが、自分の家族がどのマイワシなのか認識していません。その代わり、とにかく大量に産卵・孵化させ、群れを作ることで敵から身を守り、生存率を上げています。熱帯地域のシクリッド科の魚たちと大海原のマイワシ。子育てに注目してみると大きな違いがあることがわかります。

      ここに健在!昭和の大家族

      多くのシクリッド科の魚たちのなかでも、フルシファーは特に家族志向。母親は、自分の卵を孵 化させてから、90日間は子に寄り添い、成魚になるまで一緒に行動します。成魚になった子どもは、どこか遠くに行ってしまうのではなく、自分の母親の近くに巣を作り、そこで子育てを始めます。巣が作られるスペースは約20m以内ととても狭く、それ以上離れることはないようです。大阪市立大学の佐藤駿さんたちは、このフルシファーの特徴的な子育てに注目して研究を行い、新たな一面を発見しました。

      子どもの隠れ身の術で母親が楽をする

      稚魚が成魚になるまでの期間、フルシファーの母親は稚魚に寄り添って、天敵に稚魚が食べられ ないように見張り番をします。稚魚は、周辺に生息している貝に身体の模様が似ていて、擬態しています。母親は、この稚魚の擬態を利用して、稚魚が天敵からさらに見つかりにくくなるように、違う模様をした貝を周辺から取り除くのです。

      そうすることで、稚魚は同じ模様の貝だけに囲まれ、天敵からの攻撃頻度を更に減らすことができます。通常、生き物の擬態は捕食者と擬態する生き物の関係です。しかし、フルシファーの場合その子どもの擬態は、母親の行動にも影響し、子育てを助けていたのですね。このような関係は家族で生活するフルシファーならではの「工夫」と言えるかもしれません。

      佐藤さんたちのこの発見は世界初のものでした。フルシファーは、家族で協力し合いながら、過酷な環境を乗り切ってきた稀有な魚なのですね。 (文・田島 和歌子)

      フルシファーの雌親が子どもを守っている場面
      フルシファーの雌親が子どもを守っている場面

      (3)派手な体色で敵を威嚇する毒ガエルの作戦とは?毒ガエルには自分の毒が効かないの?

      ヤドクガエル(学名:Dendrobates tinctorius)
      ヤドクガエル(学名:Dendrobates tinctorius)

      体長約1.5~6cmと小型で鮮やかな体色が特徴のヤドクガエルは、世界中にコレクターがいる人気者。その昔、原住民がこのカエルから取り出した毒を矢じりの先端に塗って、狩りを行ったことからその名がつけられました。自らも危険にさらしかねない強力な毒をその身に携え、中南米の水辺を中心にひっそりと生息しています。

      色とりどりの宝石たちに要注意

      南米エクアドルで発見されたヤドクガエル。その近縁種は約200種にのぼり、赤や青、黄色、緑などのカラフルな体色を持つことから“熱帯雨林の宝石” と呼ばれています。しかし、この鮮やかな体色は、周囲に危険を知らせるためのもの。彼らは地球上で最も強力な毒をもつといわれる毒ガエルのグループなのです。

      ヤドクガエルの1種がもつエピバチジンというアルカロイド系の毒性物質は、マイクログラム用量で致死量に達するほどの猛毒です。1匹のカエルが持つ量で、バッファロー1匹を即死させることができると言われています。誤って素手で触ってしまったら最後、わたしたちも無事では済みません。こんなに危険な物質を体内に持っているのに、どうして彼ら自身は毒の影響を受けないのでしょうか?

      鮮やかな体色で外敵に警告するヤドクガエルの仲間
      鮮やかな体色で外敵に警告するヤドクガエルの仲間

      毒を無毒にカエルしくみ

      神経毒であるエピバチジンは、アセチルコリン受容体と呼ばれるタンパク質に作用します。この ポケットのようなタンパク質には本来、神経伝達物質として重要な働きをしているアセチルコリンがすっぽりと収まらなければなりません。

      しかし、エピバチジンはアセチルコリンと競うようにして、このポケットにくっついてしまうのです。そうすると、アセチルコリンによって制御されている全身の神経伝達はうまく働かなくなり、ついには生物を死に至らしめます。

      ところがヤドクガエルは、この毒に対応できるように進化してきたことが明らかになりました。 2017年にテキサス大学が発表した研究成果によると、ヤドクガエルのアセチルコリン受容体の遺伝子には、わずかに変異が入っていて、ポケットの構造がほんの少しだけ変わっているのです。

      この結果、アセチルコリン神経伝達に関わる働きは維持したままで、エピバチジンの影響だけを受けにくいという有利な機能を獲得することができました。この変異は進化の過程で4回にわたって段階的に起こり、おかげで、カエルたちは自分が蓄えている毒の影響を受けずにすむようになったようです。

      エピバチジン(Epibatidine)の化学構造。
      エピバチジン(Epibatidine)の化学構造。アセチルコリン受容体に結合する強力な神経毒。ヤドクガエルは、この毒性物質をアリやダニなどのエサから体内に取り込んでいる。

      毒薬変じて薬となる

      エピバチジンは確かに危険な猛毒ですが、実は超強力な鎮痛剤としての効能ももっています。こ れまでにモルヒネの200倍もの優れた効果をもち、依存性もないことがわかっており、応用への期待が高まっています。毒性さえ取り除くことができれば、一転して人々を救う画期的な薬になるかもしれないのです。

      毒ガエルによる自己無毒化のしくみは、無毒化エピバチジンの開発に向けても多くのヒントをもたらしてくれました。ヤドクガエルのように化学物質を体内に溜め込んで、 外敵への防御に利用する例は、 多くの生き物で見られる効果的な戦略です。

      ただし、 この秀逸なしくみができあがるまでの間、 彼らがリスクを背負っていたことは忘れてはなりません。毒を無毒化するしくみについては次第に明らかになってきましたが、 そもそも餌から体内に取り込んだ毒性物質をどのようにして皮膚に蓄えるのか、詳しいことはわかっていません。

      これらの研究から、私たちの体内でおこる化学物質の代謝についても、 新しい発見が得られるかもしれませんね。カエルたちの決死の生存戦略から、まだまだわたしたちは学ぶことがありそうです。 (文・中嶋 香織)

      【参考文献】
      DOI: 10.1126/science.aan5061
      DOI: 10.1126/science.357.6357.1250-a
      DOI: 10.1073pnas.0503502102

      この記事をブックマーク

      登場人物をフォロー


      著者


      関連記事

      リバネスIDにユーザー登録する(無料)

      ブックマーク、フォロー、新着コンテンツのお知らせなどをご利用いただけます

      リバネスIDは研究者の知識製造を加速させるためのプラットフォームです( →リバネスIDとは